大阪高等裁判所 昭和34年(ラ)357号 決定 1960年9月26日
抗告人 山本豊蔵
主文
原審判を取り消す。
本件を京都家庭裁判所園部支部に差し戻す。
理由
本件抗告理由は別紙のとおりであり、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
原審判は抗告人が現在詐欺恐喝の刑事被告人として公訴を提起せられ、自らも右刑事責任を認めていることを認定し、右事実は後見人解任事由に該当するとするのであるが、右事由があるとするためには被後見人の利益を毀損する虞がある等後見の任務に堪えないものであることを要するものと解するのを相当とするから、抗告人が右の如く単に刑事責任を認め、公訴を提起せられているとの一事を以て直ちに右事由があるものと断定することはできず、その行為の内容を具体的に探究し、或は右行為の結果を勘案し、それが後見の任務に如何なる影響を及ぼすかを究明するのでなければ右事由に該当するか否かを断定するに由ないものであるところ、申立人小森俊次の申立書によると、抗告人は被後見人の預金を目当てに脅迫等の著しい不行跡をなし、その預金全部を費消する虞がある旨申立てているのであるが、これらの関係については何等の資料も存在しないから、更にこれらの点について調査をしなければその当否を断定することができないものといわねばならない。原審判は結局不当として取消を免れない。
よつて、家事審判法第八条家事審判規則第一九条第一項を適用して主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 吉村正道 裁判官 竹内貞次 裁判官 大野千里)
抗告の原因
一、原審申立人小森俊次の申立にかかる京都家庭裁判所園部支部昭和三十四年(家)第三四三号後見人解任申立事件について、同裁判所は昭和三十四年十一月四日、未成年者船越康子の後見人たることを解任する旨の審判をし同月五日抗告人にその通知があつた。
二、抗告人は被後見人船越康子の実母小森千代枝の内縁の夫で、昭和三十四年七月二十九日千代枝が交通事故で急死するまで抗告人は千代枝と協力して被後見人康子を愛育してきました。
三、右千代枝死亡の際は抗告人はその葬式一切のことをすませ、原審申立人小森俊次その他の親族は全く冷淡で、康子の将来については抗告人に任せるといつたので、抗告人はその康子を唯一の光明として今日まで愛撫養育してまいりました。
四、なお審判理由によると現在抗告人が許欺並に恐喝の刑事被告人として公訴を提起せられ目下審理中で、原審における審問に対しても自己の刑事責任を認めているので、後見人としては不適当と認められるというのでありますが、抗告人は現在ただ刑事被告人というのみで刑が確定したものでなく、かえつて抗告人は刑事公判では無罪となる自信をもつているのであります。
五、さらに被後見人の母千代枝死亡当時に前記刑事事件の事情を親族のものは知りながら、康子の将来については一切を任すから頼むといいながら今日に至つて後見人解任の申立をしたのは、康子に入る恩給などを手に入れるため、あえてこれを申立て、抗告人が不幸刑事々件に関連したるときを利用したものであります。
六、抗告人は被後見人康子が実子のように可愛くて、自身は食わずとも康子だけは他人に笑われないよう育てていきたいと思いそれを唯一の心の寄りどころとして今日まできましたのに、今康子を冷淡な親族の手に渡すことはできませんので本抗告に及ぶ次第であります。